血
現在、それがここにあること、より、
未来に、それがここにあることの方が重要だ。
わたしは価値という概念を憎んでいるが、その理由のひとつがそこにある。
未来。
遠い遠い未来だ。
いつかにとって今がそうであったような、
今にとってのいつか。
わたしたちはその指先にあり、いつしか彼らがそこに行く。
私にとってはそれが重要だ。命そのものよりも人生が重要であるのと同じ意味で。
わたしたちは風に散らばるシャボン玉のようなもので、いつか弾けて無くなることは初めから決まっている。
長く飛ぼうが、大きく膨らもうが、虹色に輝こうが、初めから。
わたしたちの死が、今まであったものが消えてなくなってしまうということそれ自体が、この世に在るあらゆるものの始まりと終わりを定義するのだ。
それが人間性だ。生きて死ぬことと、それを知っているということが。決して知恵とか心とか技術とか、そういう曖昧なものを指すのではない。それにべつにただ美しいものでもない。人間らしさというのはただそこにあり、いつかなくなるということだ。遡ることはできない。
わたしはだから、価値というような、生来交換できないようなものをも交換しようとする道具を憎む。
わたしは人間を愛している。交換ができないということそれ自体を愛している。