waltz

A shuddering wolf lay. "He got shot." Mimi said.

わたしたちはよく、僕、とか、君、とか言うけれど、本当はそんなのとっても曖昧なくくりだ。
わたしはきみがきみでないものでできていることを知っている。
わたしはきみのことを、正確な意味ではヒトだとは考えていない。
きみは知っているのか? 自分が何者か。
何者でもないことを知っているのか。

べつにね、何か抽象的な話じゃないんだ。
誰が何考えようと自由とかそういう多様性の容認とかいう話でもない。
ましてや空想でも妄想でも文学でも言葉遊びでもない。
いいか、きみは忘れている。
わざとなのか? 逃避なのか?
わたしには分からないし、興味もないけれど、きみはヒトではない。
いつから自分のことをヒトだと考えるようになったのか。
なぜ自分がヒトであることを前提にして生きるようになったのか。
たとえ虚構であっても、周りが全員嘘つきだったらそれを真実に置き換えてしまうのか。
そんなに大切なことなのか? その安心ってのはさ。
いま着ている服にポケットがついていたら中のものを出してみなよ。
ないならカバンの中、引き出しの中のものでもいい。床にぶちまけろ。
その中にひとつでも嘘じゃないものはあるのか?
うさぎの足のお守りとかさ。そういうものが。

まあいい。それでも食って寝てれば生きてはいける。
仕事でもして家族でもいれば死なない理由くらいはでっちあげられるだろう。
たとえその食べものがどこから来たものであれ。
仕事が何をもたらすものであれ。
家族がどこの誰であれ。
きみがヒトであっても。なくっても。
今そこに存在はできる。
いつか死んで、はじめからなかったかのように扱われても、今はそこにいる。
誰に非難されることもない。

いやでもね、そんなわけないよ。よく考えなよ。
無理だよ。無理があるよ。そんな得体の知れないものこの世にあんましないよ。
ちょっと見回してみなよ。観察しろよ。
あれかい、幽霊とかそういうジャンルかい。
いや、そんなに難しい話じゃないよ。
きみの話だよ。

待って待って。
ちょっと待ってて。そこで待ってて。
あ、いや、逃げたほうがいいかも。